ツタヤディスカスでDVDを借りているのだけど、
ネットで予約を入れてこっちが手元にあるのを返却すると新しいDVDが届く仕組みなので、
俺みたいに週末ウォッチャーだと作品Aに予約を入れてから手元に作品Aが届くまで
2ヶ月くらいかかってしまう。
DVDは一回につき2本届く。
さて、二ヶ月前、正月休みやらなんやらで休みも多かったので何か刺激的な映画が見たいと思った。
スリラーとかホラーとかね。
そこでカルト映画として有名な「ジェイコブズ・ラダー」を借りてみることにした。
鬱になる映画として必ず題名が挙がるジェイコブズ・ラダー。
その一ヶ月後、今度は寒さが厳しくなってきたので、
もっと寒そうな映画を見て己を励まそうと思い(?)
「アイガー北壁」を予約してみた。
実話だって言うし、きっと成功して生きて帰って来た人たちの話だよね!
ヨシヨシ
と思って。
それらがいまさらになってお手元に届いたわけです。
で、今日2本見たけどどっちもブルーになった。特に「アイガー北壁」は
なんかもう、言い知れない暗澹たる気持ちになった。
最初に見たのがアイガー北壁のほうでヨカッタ。ジェイコブズラダーのほうがぜんぜん欝じゃないよ。
では、そんな「アイガー北壁」から
ドイツがポーランドに進軍したい気持ちでいっぱい、ベルリンオリンピックの1936年のお話。
有名な登山隊がアイガー北壁に挑んで凍死、しかも遺体も収容できないという
前人未到の恐ろしい氷の壁を二人のドイツ人と二人のオーストラリア人が
国の威信をかけて上る話。
結果だけいうと、全員死ぬ。おまけに最後の一人はあと本の2,3メートルで救助隊に収容される
というところでロープがつかえて力尽きる
という最高に嫌な死に方。凍傷で腕一本壊死して明らかにだめになっているのに
「暖炉の前に座ってりゃ治るさ・・・」などと気休めを言って騙し騙し下るところも
悲惨すぎて怖い。あと、手袋がキッチンミトンみたいなだし。脱げるし。破れるし。
100年前の装備なんだからこうだったんだろうが、科学力が全く追いついてないから
やめたほうがヨカッタと思う。
正直、日ごろのエアコン様のありがたみを感じるためだけに借りたのに
心底冷えた。怖い。俺標高2100メートル以上の山には登らないからね(月山)。
そんじょそこらのホラーより怖かった。しかも実話なところが倍怖い。
そしてカルト映画として名高い「ジェイコブズ・ラダー」
あ、ショーシャンクの人だーというのが第一印象。
面白かった。何でコレが欝映画殿堂入りみたいになってるのかよくわからん。
結構よくできた映画だなあと思った。
ブレードランナーとかトータル・リコールっぽいなあと思った。
製作年度を見てみたら、トータル・リコールと同じ年だった。
マコーレー・カルキンが出てきてびっくり。あとERで気の強い黒人医師役だった
エリック・ラサルが出てきていた。この人いくつなんだよ、ぜんぜん変わらないなーと
感心してしまった。
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言うまでもなく、馬のことはすっかり忘れ去られていた。トムとベイカー嬢が、それぞれ薄暮の中を書斎に向かってふらふらと歩き出した。まるで寝ずの番をしている誰かに確認しに行くみたいだった。僕は耳が聞こえなくなった振りをしつつ、和やかな雰囲気をなるべく漂わせて、眼前のポーチに続くベランダに行ったデイジーの後を追った。そして深い薄暗がりの中で、籐の椅子に隣り合って腰を下ろした。
デイジーはそのかわいらしい顔の輪郭を確かめるように手で頬を包み込み、天鵞絨のような夕闇の空へと視線を動かした。僕はデイジーがきっとひどく心を乱しているだろうと思って、心を落ち着けそうな無難な話題(彼女たちの娘の話など)をひねり出そうとした。
「ねえニック、私たちはお互いのことをあまり知らないわね」デイジーが突然言った。「いとこ同士なのに。結婚式にも来てくれなかった」
「まだ戦争から戻れなかったからね」
「そうだったわね」彼女はためらいがちに続けた。「ねえ、私、いろいろとひどい目にあったのよ。だからかなり、ひねくれてしまったの」
正直に言って、彼女にはそうなる素養はあった。僕は続きを待ったが、もう彼女は何も言わなかった。続きがなさそうなので、僕はとりあえず彼女の娘の話をしてみた。
「あの子は…よくしゃべるほうだと思うわ。食べるし…なんでもやるわ」
「そうかい」彼女は僕をうつろな目で見つめていた。「ニック、聞いて。あの子が生まれたとき、私がなんて言ったと思う?ねえ、聞きたい?」
「とてもね」
「まだはっきりと思い出せるわ。何もかもね。ねえ、あの子は生まれてまだ一時間も経っていなくて、トムはいなかった。誰もどこにいるのか知らなかった。私が麻酔から醒めたとき、完璧な捨て子みたいな気分だった。そしてすぐに看護婦に男の子か女の子か聞いたの。そしたら女の子だって教えてくれた。私は頭を振って泣いてしまった。『いいの、女の子でいいの。この子が賢くならないように祈ってるわ。女に生まれたら馬鹿な美人になるのが一番だもの』」
「ねえ、これでわかったでしょう」彼女は確信的に言った。「みんなそう思っているのよ。一番上等な人間でもね。私にだってわかる。私だっていろんなところでいろんなものを見ていろんなことをしてきたのよ」彼女の瞳は挑むように光っていた。傲慢なトムの目にも似ていた。そしてヒステリックに笑った。「こういうことを洗練されたって言うのかしら!」
彼女の声が止んだ瞬間、僕はふっと気持ちが緩み、自分を取り戻した。彼女の言葉は彼女のやっていることとあまりにもかけ離れていた。それは今日のディナーがまるごと僕の感情をひっぱりり出すための罠なんじゃないかと思うような、そんな不安な気持ちにさせた。そして僕は彼女が僕を一通り眺めるのを待った。そのかわいらしい口元に不思議な笑みを浮かべて僕を見つめる視線は、まるで僕が彼女とトムが所属している差別的な秘密結社の一員にふさわしいかどうか確認しているかのようだった。
ベイカー嬢と僕は、意味もなくちらりと視線を交わした。僕が何か話そうとしかかったとき、彼女は腰を上げてシーっと自分の唇に指を当てた。部屋を隔てて、激情を押し殺したささやきが聞こえてきた。ベイカー嬢は恥ずかしげもなくあからさまな盗み聞きを果敢に続けた。かすかな声は、一貫して震えていたが、悲しげに沈み、盛り上がり、ぱったりと途絶えた。
「さっきのギャツビー氏っていうのは僕の近所のー」僕は言いかけた。
「しゃべらないで。何が起こっているのか聞きたいの」
「何か起こっているのかい?」僕は素朴に尋ねた。
「あなた、僕は知らないって言うつもり?」ベイカー嬢は驚いたようだった。「誰だって知ってると思ってたわ」
「知らない」
「なぜ・・・・・・」彼女はためらいがちに言った。「トムにはニューヨークに女がいるの」
「女がいる?」僕はばかみたいに繰り返した。
ベイカー嬢はこくりと頷いた。
「ディナーの真っ最中に電話を掛けてこない分だけ上等だと思わない?」
僕が彼女の言った意味を理解する前に、ドレスとレザー・ブーツの靴音が聞こえ、トムとデイジーが戻ってきた。
「もう我慢できない!」デイジーが愉快そうに叫んだ。
彼女はベイカー嬢と僕を意味ありげに見つめながら腰を下ろして続けた。「ちょっと外を見てみたの。外はすごくロマンティックな夜だわ。芝生に鳥がいるの。きっとキュナードかホワイト・スター・ラインを超えてきたナイチンゲールに違いないわ。鳴いているの―」彼女の声はまるで歌うようだった。「ねえ、ロマンティックじゃない?トム」
「とてもね」トムは言ってから惨めそうに僕に向かって続けた。「ディナーは終わりにして、馬小屋を見せたいんだが」
電話が部屋の中で、誰かを脅かすように鳴っていた。デイジーが馬小屋の話を持ち出したトムをまっすぐに見つめた。実際はどんな話題でも消えてなくなる運命だった。テーブルの上で5分間のうちに起こり、粉砕されたもののうち、僕が覚えているのはキャンドルの火が再び明るく漠然と輝いたことと、僕が他の3人をちょうど同じくらいの長さになるように眺め、彼ら全員から目を背けていたことだ。僕にはデイジーやトムが何を思っているのかさっぱりわからなかった。でも僕は、非常に完成された懐疑主義者に見えるベイカー嬢にさえも金属的に鳴き続ける5番目の客人(電話)のかなきり声は予想の範疇を超えていたのではないかと思う。非常に限定された気性の持ち主であれば、その状況を楽しめたのかもしれない―僕の気性の場合は、「すぐに警察に電話しよう」だった。
彼の様子はどこか悲壮だった。彼が自己満足しただけではもはや終われないと言った調子で、年甲斐もなくむきになっている。そのとき、ほとんどだしぬけに、部屋の中で電話が鳴った。突然入った邪魔にぱっと目を輝かせたデイジーは僕にもたれかかり、執事が電話を取りにポーチを出て行った。
「ねえ、家庭のひみつを教えてあげる」彼女は熱っぽくささやいた。「執事の鼻のこと。ねえ、執事の鼻の事ききたい?」
「そのために僕は今夜尋ねて来たんだよ」
「ねえ、彼はずっと執事をやってたわけじゃないのよ。昔はニューヨークで銀磨き職人をしていたの。200人もお客さんがいたの。朝から晩まで銀を磨いて、ついに鼻に影響が出てしまったのよ―」
「物事って悪くなる一方なのよね」ベイカー嬢が付け加えた。
「そう。さらに悪いことに、彼はその仕事をついに辞めちゃったの」
夕暮れの最後の一滴が彼女の顔の上にロマンティックな光を投げていた。彼女の声を聞いていると、息つくまもなく引き込まれそうだった。やがてまるで楽しかった遊び場を離れて家に帰らなくちゃならない子供のように名残惜しそうに、太陽が沈んで夜の帳が下りてきた。
執事が戻ってきてトムの耳元で何事かつぶやくと、トムは顔をしかめて椅子を押しやり、何も言わずに家の中に引っ込んでしまった。彼がいなくなったことで何らかの刺激を受けたらしいデイジーが、再び僕によりかかった。彼女の声は輝き、歌っていた。
「ねえ、あなたがここにいてくれてとっても嬉しいわ。あなたはまるで・・・薔薇、まさに薔薇みたいなの。そう思わない?」デイジーはベイカー嬢に確認を取った。「まさに薔薇?」
全然思わない。僕は薔薇が好きでさえない。彼女はただ思い付きを口にしたに過ぎない。こういった息をするのも忘れて胸が高鳴るような言葉で人の心を開かせようとするのは、彼女の暖かい心の単なる現われなのだ。そして彼女は突然持っていたナプキンをテーブルの上に放ると、一言断って家の中に入っていった。